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芥川「疑惑」ドロボーでしょ


「私」が主人公の一人称です。


実践倫理学の講義を頼まれて、岐阜の大垣町へ。

素封家の別荘に滞在する。

別荘番の夫婦がいるだけで、深閑な場所。

床の間には、花の生けていない青銅の瓶

その上には怪しげな楊柳観音の軸。

滞在も最後となる晩。

すーっと襖が開く。

そこには独りの中年男が座っていた。

羽織袴で手には扇。

中村玄道という、四角張った名前。

キチンとしている。

左手の指が欠損していること以外は……。

「先生にぜひとも聞いてもらいたいことがある」と、

男の話が小説の大部分をしめる。



青空文庫にありますから、詳しくはそちらを。



大震災のとき、妻が屋根の下敷きとなり、生きたまま焼死させるのは可哀想だから、瓦でなぐって殺したことを告白

夫婦生活に不満があった自分の、その時の心理は、じつは、災害に便乗して「殺そう」としたのではないかというもの。

その事をずっと引きずり、後の再婚の式で取り乱し「今では狂人あつかい」

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真相、というか小説のポイントは何?


夜中にいきなり襖が開くわけです。

自宅なら110番ですが、他人の家。

「え、誰?」となったのでしょう。

そして、侵入者はじつに「落ち着き払っている」。


この手法。初めて出会ったのが、深沢の「花に舞う」

主人公と読者が一緒に「騙される」構成です。

「春琴抄」もそうです。

結構たくさんありますが、意識しないと気づかない。


この男は掛け軸柳観音図」が目当ての泥棒でしょう。

素封家という所がミソ。

国宝級の物では。東京の先生が来るので、特別に出して来た。

その噂を聞きつけたのでしょう。


すーっと、開けた。

寝ていると思ったら起きていた!


しかーし、慌てず騒がず。落語みたいなことに。



「指がない」のは何を意味するのかはちょっと解りません。

窃盗が見つかり、刑罰か、謝罪で断指したのか、はたまた、キリスト教の「誓い」と関係あるのか……。


文中に「春寒く思う」など「春寒」が二回でてくる。

俳句の方ではよく使う言葉らしい。

芥川ですから、当然「中村玄道」という名前に意味を込めたはず。


超怪しいのが「玄」

「春寒」がヒントでしょう。


「玄」=ハルと読む。


  玄道=はる道=春道


春の道のイメージは「ぬかるみ」です。春泥という語もある。



 玄道=泥道=ドロボー道  




ドロボー道一筋。プロ中のプロとお見受けいたしました。



*「疑惑」は、「偽吐く」?「偽悪」?

by ukiyo-wasure | 2018-09-13 17:57 | 詩・文芸 | Comments(0)
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