全部で16章ありますが、 『石原慎太郎の文学9』の15作品+「黒い水」と一致していると思われます。 第13章が「北壁」(1956年)だと思う。 北壁というのはスイスのアイガーという山の北側で、多くの登山家がチャレンジしては命を落としているらしい。 そのことを、「事実に基づいて」かなり硬質な文体でキッチリと書いている。 小説ですから当然、創作の部分があり、夫の遭難に直面した妻の愛憎が絡んできたりする。 他の作品のような「仕掛け」「裏の意味」などは感じられない。 ワザとらしい比喩も見当たらない。 雪と岩がまだらに広がった風景を「蜘蛛」と呼ばれていると説明。 ちょいアヤシいが、スルー。 すらすら〜と来て、ついにラストの一文。 〜雲の切れ間から遠い眼下の町と明るい夏の湖の輝きが映った。 ん?! 何に反応したと思いますか。「湖」です。 川端康成の「みづうみ」は深沢か誰かの代作と思うと前に書きました。 もしかして……と、少し前に戻って読み返した。 この山は、北壁だけが切り立っていて、中がトンネル状、鉄道が通っている。 北壁面に窓が開いていて、遭難死してザイルで宙吊りとなった夫の姿を、妻がそこから見る。引用します。 彼女はベルナールが止めるのも聞かず窓から身を乗り出してその収容を仰いで見ようとした。 このシーン、「雪国」とかぶる。 川端康成を疑う心が「思い込み」を招くのか。 「代作」を散りばめているなら「伊豆の踊子」があるはず。 「俺は山を下りたらな、一寸ぬる目のバスに二日もつかってやるぞ」 うーむ。 じゃあ「禽獣」はあるか。 「畜生め、畜生め、畜生め」 ちょっと待て。「蜘蛛」は「源氏物語」なら「篝火」……。 もう一回じっくり読み返します。 「スプートニクの恋人」では、“山で音楽”で「山の音」か、“手が自分のものでなくなっていた”は「片腕」か……。 ああ、悩ましい。
by ukiyo-wasure
| 2018-03-02 00:14
| 詩・文芸
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